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2011.06.14 Tuesday / - / スポンサードリンク

おしごと。

竈にかけられた銅の大鍋から立ち上る湯気、果実酒の硝子瓶、積み重ねられた白磁の皿。
大食堂に隣接する厨房はひっきりなしに交わされる大声と足音、薪のはぜる音で満ちていた。

「はいよ十四番テーブル! 秋野菜のスープと白糖芋のポタージュ、カルカナッツの白パン二つ、星葡萄のビスケット、雲飛び魚のソテーにシェロー鴨のステーキ、氷桃のプディング、それに野苺のミルク酒二つ!」
大きな銀のトレイに所狭しと料理が並べられると、白兎のウェイターは片手でそれを軽々と持ち上げて、スープの湖面にさざ波ひとつ立てずに早足で大食堂の十四番テーブルへと向かう。
それを見送る小さな影、ひとつ。

「ふわぅ……すっごいなあ」
その影は淡緑色の毛皮に羽根と尻尾を持ち、厨房の隅の天井近くに浮かぶ。
眼前の人波は依然目まぐるしく動き続け。
「お手伝いに来たはずなのにー……」
竈を取り囲む調理台から盛りつけられた料理が次々と対岸の長テーブルに乗せられ、こぼれ落ちそうな大皿を満載したトレイをウェイター達が持ち去る。繰り返し。繰り返し。一瞬の滞りすらもなく。



「はーい今日はこれでオーダーストップ!」
四半刻ほど経て、誰かが短鈴を振り鳴らし、叫ぶ。
先程までの慌ただしい空気がふっと途切れ、シェフ達もウェイター達も動きを緩めた。
何人かが鍋に残った料理を手近な皿に盛りつけ、それ以外の全員は長机の椅子を引き出して腰掛ける。

と、肉料理を三つの大皿に盛り終わった先程の白兎のウェイターが淡緑の仔竜に視線を向けた。
仔竜がその視線に気付いたのを見て、大皿のひとつを差し出し、笑顔で手招き。
仔竜は一瞬戸惑うも、慌てて調理台の前まで高度を落とし、白兎から大皿を受け取った。
「っわわ、……!」
頭上に大皿を担いだ仔竜は大分ふらつきながらも調理台から長机までの数歩を飛ぶ。
白兎は残りの二皿を両手に、長机の反対側と中央に事も無げに置いた。
「とっとと……う、うきゃ、んぎゅっ」
仔竜がだいぶ傾いてテーブルクロスに着地した大皿の下からなんとかして這い出ると、白兎は既に長机の右側に座るシェフやウェイター達のグラスに果実酒を注ぎ終わるところだった。
そのまま席に着き、仔竜には机の端に座るように目で促す。
仔竜がやや恥ずかしげに座り込むと、白兎は優しく微笑みかけ、そしてまた皆の方へ向き直ってグラスを取る。
「皆、今日もご苦労様! 乾杯ー!!」



その晩遅く、自宅に帰り着いた仔竜とそれを迎える同居人の青い猫。
「おかえりなさい、お疲れさま。一日修行はどうだった?」
「う……」
「大丈夫? 何かあったの?」
「…………ボク、もっと身体を鍛えるんだ!!」
「……え?」

もう半刻すぎて、ふかふかのベッドに倒れ込むように入ってすぐ眠った仔竜を見つめ、
「そんなに大変だったのかな……たしかに大きいお店だったけど」
猫も肌掛けをまくり上げてベッドに潜ると、仔竜を起こさないように声を出さずに呟いた。
「うちで気付けないことに気付いたならいいんだけど……キッチンのお手伝いに行ったのに『身体を鍛える』……?」
猫は不思議そうに仔竜の寝顔を覗き込んだが、やがて小さく笑って、
「……まあ、いいか」
枕を抱きかかえて眠る仔竜の頭をそっと撫で、そして自分も目を閉じた。

遠くの空の金月が、丘の上のカフェの屋根をそっと照らしていた。



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しばらく前に書いたけど、のっけてなかったもの。
お題「料理を持つ」だったかな。うろ覚えちゃん((

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