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2011.06.14 Tuesday / - / スポンサードリンク

夜明け。

昨日は随分暑かったけど
その分夜は冷え込んで、
眠る間に雨でも降ったか
辺りの地面は湿ってた。

草木は静まり返ってた。

朝陽は雲の向こう側でも
透かした空は明るくて、
薄く流れる真白い霧も
光を散らして眩しくて。

鳥の声が一つ聞こえた。

雲の海の話

一面の白が広がっていた。

緩やかに波を描き、
ところどころで風に巻き上げられて
小さな渦を散らしながら
視界を埋め尽くす真白い雲の海は
それが空の青色と混じりあう
曖昧な線までずっと続いていた。



「なんにも見えないね」
やや幼い子供のような声が、そう言った。
「そう?」
最初の声より少しだけ高い声が
やや間をあけて、返した。
「今日は風が強いからかな、
 雲の上に出てる島はここだけかも」
最初の声がすぐさまそう続ける。
「ああ、それは確かに。
 下の方の風の音もすごいしね」
「…そうかな?僕には何も聞こえないけど」
「耳か頭かが慣れちゃって感じなくなってるんだよ。
 今日は起きた時からずっと鳴ってるよ、もちろん今も」
「…わかんないや」
白い竜は、難しい顔で座り込んだ赤い竜を後目に、
また一面の白に視線を戻す。



「なんにも見えない」
しばらくの沈黙があって
最初の声が、またそう言った。
「そう?」
それより少しだけ高い声は
さっきと同じくらいの間をあけて、返した。
「そうだよ、見たとおり。
 いつも見える島たちはどこにもないし
 誰かが飛んでる姿だって見えない」
少しだけ強い口調で返って来た答えに
白い竜はゆっくりと視線を上げて、
「海が、見えるよ。
 いつもより波のうねりが大きい、
 普段あまり見られない渦もいくつか見える。
 それに流れてく早さもずっと速い。
 くるくる変わる表情は、とても綺麗」
答えると言うよりは呟くように、そう言った。



「…ホントだね」
またしばらくの沈黙を挟んで、声がした。
苦笑混じりの、しかし嬉しそうな声だった。



雲の海に泳ぐ島々のひとつ、
一面の白を見渡す緑の岬に
小さな白い竜と赤い竜が、並んで座っていた。



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「第02節の20日目 13刻と34小刻」

白い庭

動いているものは何もなかった。

静かに吹き上げ落ち続ける噴水の水も
時折そっと通る風を受けて揺れる芝生も
眩しすぎるほどに穏やかな陽の光も
今尚これまでと何も変わらずに、
これからも永遠にそこにあるように思えた。



「ただいまー。いつまでつっ立ってんの?」

頭上すぐ後ろから羽音とともに聞き慣れた声が近付いてきて、
ほどなく鮮やかな黄と赤の羽根を持った鳥が左肩にとまった。

「……だから乗るなって言ってるでしょ。重い」

「いーじゃん、減るもんじゃなし。
 それに地面よりはフォスカの肩の方がとまり心地いいし」

「こっちはいい迷惑なの」

フォスカ、と呼ばれた獣人は溜息を漏らしつつも
極彩色の鳥を肩に乗せたまま大きな噴水の台座に腰を下ろした。



「リジュ、空から見てきたんでしょ?街の人たちは?」

「とっくに全員逃げ出したよ。何を今更」

「そっか」

街を見下ろす高台、宮殿の空中庭園の中心からは
誰もいない庭と頭上の青い空だけがよく見えた。

「……誰か一人くらい、死んでも動かないぞって人がいるかと思ったんだけど」

「それってボクのこと?それともフォスカのこと?」

「……そうだね、両方」

二人は互いに顔を見合わせ、小さく笑う。



「退屈だな。終わりまでの間、お茶にでもしない?」

「……リジュのその余裕は羨ましいよ」

「そう?」

フォスカはやれやれ、とばかりに立ち上がり
噴水の縁からやわらかい芝生に飛び降りた。
そのまま庭園を後にして、再び古めかしい造りの宮殿の中へ踏み入る。

「あの厨房の無駄にたくさんある棚の中から
 お茶とお菓子を探し出すのは大変そうだな……」

「ま、フォスカ自身の安息のためだし。がんばれ」

「……なら、僕の安息のために肩から下りてくれる?」

「いーじゃん、減るもんじゃなし」



声は徐々に遠ざかり、やがて聞こえなくなった。



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「第11節の19日目 18刻と27小刻」

空色の季節

青と蒼の世界

空色の季節

クィアンデルの果実酒

獣の足跡

太陽と風の国の景色

聖木の杖の飾り布

真っ白な地図

ベッドと薄い肌掛け

夜告げ鳥の遠鳴き

星の海







涼やかな音色の水晶の旋律にのせて。





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「第05節の23日目 22刻と21小刻」

きれいな色を拾い集めて、籠いっぱいの星屑を抱えて。

 頭上の遥か高くにかすむ月を飛び越え竜が舞う。半透明の樹は風に流
され竜の羽跡を横切って、球形の空の遥かな地平の中を、遊ぶように、
歌うように、どこまでも泳いで行く。泳いで行く。

 太陽めがけて大きく伸びた色とりどりの果樹が、鈴なりの花の香りで
微睡む獣を外へと誘う。一歩踏み出せば白い町。連なる家並みは暖かみ
を灯す石造りで、草葺きの屋根がときおり暖炉の薄い煙をなびかせる。
坂道と岩の階段の町。西側の山から吹き下ろす風は暖かく、南は空へと
通じる丘の道。果樹の若々しい緑が町に彩りを添える。
 目覚めた部屋からは、深い深い青を背景に尾を引いた雲の向こう側、
遠くに浮かんだ大陸が白い窓枠のキャンバスを通して見えていた。午前
の日差しは無地の絨毯の上に影と光の模様を落とし、窓から窓へと抜け
る風は初夏の兆し。午睡を切り上げ、立ち上がる。
 渡り廊下の風よけは織り目の粗い極彩色の布。階段を下りて左手の壁
には丹念に手入れされた様々な調理器具が吊られて並ぶ。明々と燃える
暖炉からもれだす甘い香りは黄色の果物のパンだろうか。調理場から立
ち上る白い湯気が、家主の帰りはそう遅くないと知らせる。
 鈍色の小鍋を火から少しだけ遠ざけて、そっと蓋を開けてみる。この
地方でよく食べられる若々しい緑菜が湯の中に踊っていた。朝焼けの草
原の淡い香りが鼻をくすぐる。
 細やかな波を描く葉を菜箸ですくい上げ、味見を少々。壁にかけられ
た香辛料入れから、オレンジ色と金色の粉を選んで一つまみ。緑色の野
菜の上でひときわ目立つ星が散る。遠くの海の国では当たり前の技法だ
けれど、もう長いこと見ていない気がした。



----

おやすみの時間

「…………ふぁ」

薄暗い部屋の片隅に小さな欠伸を投げて、
淡い月色がかった竜が静かに目を覚ます。
煉瓦の壁に掛けられた振り子時計の針は
眠りにつく前とぴったり同じ、25時61分。

竜はベッドから飛び降り、光の差す大窓へ寄る。
空は白く澄み、太陽と二つの月は定位置から動かない。
草樹も、水も、風さえも、全ては動かずそこにある。

「……たまには眠るのもいいけどさ」

竜は色のない世界を見渡し、ひとり呟く。

「いくらなんでも長すぎだよ…………」



眠り続けるこの世界が目を覚ますのは、
まだもう少し先のこと。




好きな言葉

「明日は晴れるといいよ」

「またあした」

かなしみ

いっぱいの光がすき
まっしろな雲がすき
きらきらの空がすき
すきとおる水がすき
まっすぐな道がすき

遠い遠いひとつの世界がすき
しあわせがすき



でも
それでも
願わくば

ぼくの大切なひとすべてが
しあわせでありますように。

青空の下

「ねえ、空の下って何があるとおもう?」
「空の……下?」
突然の問いかけに、私は思わず返事に詰まる。

「うーん……やっぱりどこまでも空なんじゃない?」
「そっか、そうー……なのかなあ」
根拠のない憶測でそう答えてみたが、
彼はどうやらその答えでは納得できないようで、少し考えたのち再び口を開いた。

「僕たちの周りってさ、空の青か雲の白ばっかじゃない?
 でも、下の方を眺めてるとたまに雲の向こう側に別の色が見えるんだ」
「え、青でも白でも黒でもなくて?」
まさか、と思って向き直るが、彼はあくまで真剣な面持ちだった。
私は前翼で身体を半回転させ、遥か下を流れる雲のさらに向こうへ目を凝らす。
下の方では大きな雲が幾重にも重なり合っていたが、その雲と雲の隙間に、
言われてみれば気付くか、程度に微かだが確かに見慣れない色があった。

「ほんとだ……」
と、その微かな色を見ながらふと考える。
空の下の話なんて誰かに聞いたことがあっただろうか?
空はどこまで行っても空だ、なんて教わった記憶はあるけど
それはあくまで東西南北、水平方向の話。
ずっとずっと高いところは空がどんどん薄くなって
寒さでとても飛んでいられなくなる、なんて話も聞いたけど
じゃあ低いところはどうなんだろう?

「なんだろう、あの色……夜空の色にもないよね」
「そうなんだよね。あのさ、ちょっと考えたんだけど……」
そう言って彼は声をひそめ、私に耳打ちする。

「……空の下には、ぜんぜん別の世界があって
 竜じゃない別の生き物がいっぱい生活してるのかも、って思うんだけど」
「…………ぷっ」
そのあまりに突拍子もない考えに、私は思わず吹き出した。

「なんだよっ、笑わないでよ! 真剣なんだぞ!」
「あははははっ……ご、ごめんっ。でも、あんまり夢みたいで……っ」
「もうっ、ひどいなあ……」
ちょっぴり拗ねた様子でそっぽを向いた彼の様子がまた可笑しくて、
私は少しだけ滞空する位置を上げて、彼の頭をなでてやった。

「昔からこうだったよね、しっかりしてるんだけど夢見がちで」
「夢じゃないよっ、ほんとにそうだと思ったんだから!」
「きっとね、それが夢見がちって言うんだよ」
「……うー」

「でも、君のそんなところ、私は好きだよ?」
「え……!」

再びそっぽを向いてしまった彼を横目に、
私はもう一度遙か遠く、青空の下へと視線を移した。
不思議な色はもう雲に隠れて見えなくなっていたが、
もし空の下に彼の言うような別世界があったら
それはそれで素敵かも、なんて柄にもない想像をしながら、
彼が遅い返事を返すまで私は広い空の下を眺めていた。



夏の終わり

照りつける、と言うにはもう随分やわらかくなった光が
点々と浮かぶ小さなはぐれ雲を真白く輝かせていた。
大きな樹の枝から見渡す草の海は今日も青々としているが、
その海を通り、あとに小さな波を残していく透明な竜は
昨日までのそれと違い、微かに月の色を纏っているように見えた。

「――ふぅ」
空の一点へと視線を上げ、
オレンジ色の尻尾を風に遊ばせたまま獣は小さく溜息をついた。
すぐ隣に座ったよく似た姿の獣が、その溜息に振り向く。
「どうしたの?」
「なんだか淋しいな、って、思って」
「……ボクがここにいるのに?」
視線も動かさずに答えたオレンジの獣に、
隣の獣は憮然と言うよりは不思議そうな表情で訊き返した。
「あ、そうじゃなくて……ええっと、
 今日はずいぶん涼しくて、お日様が遠くに見えるから」
「そっか、ほんとだ」
オレンジの獣が少しだけ慌てた様子で訂正すると、
隣の獣も空へと視線を移し、頷いた。

太陽と、光を受けて煌めく小さな星々がゆっくりと空を流れる。
風が次々に草原を渡り、大樹の枝を穏やかに揺らしていく。
二人はしばらく枝に座ったまま、空と、草の海を眺めていた。

「おーい! もう準備はじまってるよー!!」
雲が少しだけ金色を帯びはじめた頃、不意に樹の下から大きな声がした。
見ると、星葡萄の蔓と光水晶を両手に抱えた赤い獣が二人を呼んでいる。
「あ……」
「そっか、明日は」
二人は思わず顔を見合わせ、声を揃える。
「「星狩りのお祭り!」」

村の広場の方では既に村人たちが集まって、
次の季節を迎える祭りの準備に取りかかっているのが見えた。
赤い獣は大樹の幹伝いに下りて来た二人に荷物を半分ずつ渡し、
すぐに来てね、と言い残すとまた慌ただしく広場へ走っていった。

「……淋しいばっかりじゃなかったね」
「うん」
二人はもう一度空を見上げ、笑顔を交わすと
すぐに赤い獣のあとを追って駆けだした。
誰もいなくなった大樹の枝で、透明な竜が二人を見送っていた。



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